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執筆者の写真Zen Voice Factory_ZN

第13聲 ボイトレで「鼻腔共鳴させて」とか「鼻は使わないで」とか結局どっちなの!?について科学的に説明してみた(後半戦)。


さて前回のボイトレコラム第12聲の続き

「鼻腔共鳴」は結局使うの使わないの??

に関して続きを書いていきましょう。


前回までは

「鼻腔共鳴」というそもそもの言葉の定義

を見ていきました。


また先に今回のテーマの結論として

鼻腔共鳴は使うのか使わないのかの答えは

「歌唱の用途による!!」

と書いていきました。


「歌唱の用途による」ので

ボイストレーニング時点では

「鼻腔共鳴を常にさせて」とか

「鼻は絶対使っちゃダメ」のどちらかにはならないと僕は思ってます。


鼻腔共鳴を使ったのと使わない声との違い

その用途、そしてそれが何故なのかと言う

僕が知りうる限りの科学的根拠を出しながら

今回はそちらを紐解いて書いていきますね!

テクニックとして両方使うのでもちろん両方できた方がよろしいかと思いますし

ボイトレでは用途とテクニックの違いを説明してもらいながら

できるようになっていくといいかなと思います。


まずは

「鼻腔共鳴を【使う】、【使わない】、とでどんな声になるか」

がわかるといいですよね。

今回はあくまでPOP,ROCKでの場合で解説します。

(これを読んでくれてる人はPOP,ROCKを歌う人が多いと思うので

世界各国の民族音楽などの歌い方もいれると

複雑でわかりにくくなるので)


大きく分けると下記の3つになります。


①口から強く息を吐いていく歌い方(鼻腔閉鎖はキープしていないが鼻には息はほぼいかない)

②鼻腔閉鎖をしてTWANGで歌う(鼻に息はいかない/簡単な解説は前回、詳しい解説はまた別回にて)

③口と鼻、両方から息を出して鼻の鼻腔共鳴を積極的に使う(鼻から息が出る)


まずは違いを聴いてみたほうがわかりやすいと思いまして

参考音声の解説動画を作ってみました


全て違いを出す為にそれなりにオーバーにやっています

特に3つ目の鼻声はこれだといわゆる「鼻声」に聴こえてしまい

歌では使いにくいので

鼻への息、鼻腔共鳴の度合いをコントロールして使います。

何事もバランスです!


3つの音声、最終的には好みと用途になるかと思いますが

前回のコラムでも少し解説したように

現在のPOP,ROCKは基本TWANGで歌うのが主流かと思います。


それが何故なのかを説明しますと

まずTWANGを使うとお聴きのように

芯のある明るい抜け感のある音質になります。

そうなる理由は

鼻腔閉鎖をして息を鼻へいかないようにして

口腔内の気圧を高めることにより音を強くしています。

「圧」とは水圧でいうホースの口を握ると水が通る道(面積)が小さくなり

そこに乱気流が生まれ圧が強くなる仕組み。


鼻と口、二つの空間へ息が行くところを

鼻への息を遮断しそちらの空間をなくしてるので

結果息の通る面積が小さくなり

音圧も同じく息の通り道が小さくなると圧が上がり音が強くなります。

口蓋帆をあげているので上顎方面に空間が広くなり

高音の倍音がブーストされるので抜け感が上がります。

簡単に言うと理由は以上です/

(舌の位置で喉頭蓋の空間を押して狭くしてるもありますが詳しくはまた)


現在のPOP,ROCKの楽曲

エレキギターやエレキベース

キーボードやシンセサイザー、サンプリングマシーンなど

電気を使って構成されてるものが多く

昔のアコースティック系の楽器に比べて音質がパキッと硬いものが多いです。

その上にボーカルを乗せる場合、

同じくパキッと芯があってブライトな声質を使ったほうが

楽曲との混ざりもよく、かつそれぞれの楽器が出す周波数帯もかぶりにくく

ボーカルは抜けて立って聴こえます!

(もちろんトータルでそういった音作りも必要)


「ってことは??」

と思った方、そうですね!

現在のPOP,ROCKでもピアノやアコギなどの電気を使わない

生楽器での演奏の場合は

それらの楽器は電気楽器に比べ温かい丸い音なので

TWANGせずに(口蓋帆を上げず鼻腔閉鎖せず)

抜け感を少し落とした丸っこい声質にすると

全体にアコースティック感とマッチします。

楽曲はアコースティックでもボーカルはスコーンとTWANGで

抜け感を出すってアプローチも

もちろんありですよね(用途による!って理由です)


さてここで

TWANGせずに(口蓋帆を上げず鼻腔閉鎖せず)

鼻腔共鳴を使っていくと

なぜ丸っこい温かい音になるかですよね。

これも科学的に分かりやすく説明しますね!


ここでは僕がこれを読んで音への理解が深まり

ボイトレが大きく進化した本の1つ

音声学の先駆者である、藤村靖先生の著書

「音声科学言論-言語の本質を考える」(岩波書店)から

抜粋します。



●一般にF1は鼻音化によって上がることが知られている(P79より)

●口蓋帆が下がっていて鼻音化した母音の状態から、少しずつ口蓋帆を引き上げて鼻音化の効果を連続的に小さくしてゆくと、(中略)F1の含まれる低周波領域にあった複雑な山や谷の包絡線の構造が次第にすっきりして鼻音化のない母音のF-パタンに相当する包絡線になる。(中略)

鼻音化してるときには、この一番低い周波数領域に鼻音化のための強まりがあり、各フォルマントの山の形が明瞭でなく、谷もすっきりとした谷にならないで複雑な形になっている部分が多い(P80より)


ここで出てきます「F1」というのは、低い周波数帯のことです。

高い周波数帯に向かうにつれF2、F3、F4、F5と呼び

人の声紋には必ずこの5本の横縞の線が出ます

下の写真が僕の声紋です、一番下の赤い横棒がF1です。

緑がF2です。

鼻音化(鼻腔共鳴)するとこのF1の値が高くなる=低い周波数帯がブーストされますので

TWANGよりも少し抜け感が落ちて丸くモワっとした感じの音になるということです。


前回も紹介させていただいた

広島大学医学部耳鼻咽喉科学教室 益田 慎さんの書かれた研究論文

「共鳴腔 としての上顎洞の役割に関する実験的研究」の中で


小山はモデルを用いた実験から(中略)

副鼻腔は「付属的な音声器官とし

て音声の共鳴に影響を及ぼし得て,特に音色に美的及

び量的な要素を付加する効果を有する」と結んでいる.


との記載があります。

この「音色に美的要素を付加する」の

「美的」の定義なのですが、あくまで僕の考察ですが

人は低い周波数帯が綺麗になっている声を「落ち着く良い声」

と感じる、言うことが多いように思います。


鼻腔共鳴によって上がったF1(低周波数帯)によって

深みや温かみ(キンキン感減少)が足されそれを「美的」としているのではないかと思います。

クラシック音楽や、邦楽、歌謡曲などには大きく当てはまってくるかと思います。

「美的」要素もいろいろありますからね。


最近のPOP,ROCKに関しては

全体的にかなり高音の音域を使う曲も増えてきていますし

(ようやく海外に追いついてきているという感じでしょうか。)

特に男性は高音化が1990年代に比べ著しいかと思います。

現在男性が女性の高音域で歌っているのも(C5以上)珍しくはありません。


音程が高くなれば、音質的にも

高い周波数が強くでてきます。

低い周波数を引っ張りながらは中々大変です。


高音をファルセットではなく

しっかり音圧強く芯ある音で喉に負担をかけず発声するには

TWANGを使う形になるのも大きいかと思います。

さらに現在は業界的にもパキッと芯があっての抜け感を求められてる傾向があるように思います。


低音域に関しては鼻腔共鳴させる、あまり使わないと

どちらでも使えるのでこちらも好みやどんなアプローチをしたいかになるかと思います。


こういったところも「ジャンル、用途による!」というところかと思います。


歌声の「美的」に関しては

最近の科学では「シンガーズフォルマント」と呼ばれる

3500hz〜5000hzあたりの高い周波数帯がしっかり出ているかつ

F1、F2といった下の周波数と同じくらいの音圧で出てくると

「いわゆるプロの歌手の持つ声」と言われるという研究結果もあります。

黒く濃く見えるのが音の強さです。

低い周波数帯と高い周波数帯が2層で両方ともくっきり出てくる感じ。

こうなってきますと、ボーカルがバックのインストに負けず(周波数帯が被らず)

しっかり抜けて前に出てくる形になります。

どうやって出せるようにしていくか

生徒さんそれぞれによって現状が違うので

生徒さんそれぞれの声の通り道(声道)の形状

舌の位置も声道の形状には欠かせないので

しっかり判断して必要なトレーニングしています。またこれは別の機会に。



このような形で鼻腔共鳴は使うのか、使わないかということに関して

全2回にわたり書いてみました。


結論、「鼻腔共鳴させて」とか「鼻は使わないで」とか

結局どっちなの!?は

「用途による!!」かと思うわけです。


両方できた方が当然表現の幅は広いので

担当のトレーナーに聞きながらレッスンしてみてください!


というわけで今回も長々とおつきあいありがとうございました

これから大学の先生方と音声の研究も進めていきますので

色々またわかったことあったら書いていきますね



それではまた、

アディオスパンパミーヨ。

さよなら、さよなら、さよなら(淀川長治風)





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